2012年12月24日月曜日

My honeymoon

 もう10年以上前のこと。
 ちょうどフライフィッシングにはまりだしたころで、1本目のセット竿では物足りなるころ。sageというブランドがどれだけ高級品かを知ったころに結婚した。それまでは独身だったころもありすべてを釣り道具と釣りにつぎこんでいた。だいぶ無駄な買い物をしたと思う。安物買いの銭失い、というのは今も変わらないかもしれない。 当時は会社を1週間休むなんてありえなくて、もう2度と海外旅行にいけないだろうと彼女を説き伏せて新婚旅行にもかかわらず釣りに行くことになった。
 熟読していたFlyFisher誌では佐藤成史さんの海外旅行の連載がされていて、ひがな読んでは妄想する日々だった。特にNZの記事には物凄く心惹かれた。片隅にはTrout and King社の広告が載っていたし、いつか行けるような気がいつもしていた。いや、もし自分に新婚旅行というものがあったら、海外釣り旅行をできる人と結婚すると勝手に決めていたのかもしれない。
 彼女は釣りなんか全然しない人だし、インドア派だったけれど、聞いたらインドやオーストラリアに行ったことがあるとのこと。結婚する前にもかかわらず猛烈なおねだりをしてNZに行くことになった。夢中で彼女にフライロッドの振り方を教えた。結婚式の会場を決める前に旅行の行き先を決めた。結婚式場の費用も貯蓄していなくて親戚のお祝い金をあてにしていたにもかかわらず竿を買ってもらった。自分で買ったはずなのだけれど、あまりにも手持ち現金がなくてすでに年末のボーナスは差し押さえられていたため。当時もう最後の竿になるだろうと想像して、数少ない生涯保障のついたsageにした。SPの6番。NZで使うならこの1本と決めていた竿だった。
 新しい竿に新しいフライライン。巻きためたロイヤルウルフ。インターネットも使えないし自分のPCすら持っていない頃だったので、いよいよTrout and King社に電話して詳細を詰める。頭の中は結婚どころか釣りでいっぱいだった。飛行機の乗り方すらわからない若造が、チケットがないと言ってはちょくちょく電話をしてもやさしく応対してくれたのは夷谷さんという方だった。どうやらチケットは千歳空港でもらえるらしい。ちょっとそそっかしいところもあったけれど、自分たちの要望に可能な限り応えてくれた。中4日は自由時間があって、2日釣りにするか、3日釣りにするかで彼女ともめた。結局2日しか釣りはできなかった。彼女の中では釣りは1日だけだったようだ。それでもあこがれの佐藤成史さんもガイドしてもらったというTonyにガイドしてもらうことになった。もしお金だけ振り込んで手配されていなくてもわからないよね、と二人で冗談を言いながら結婚式を終えた。
 飛行場では手はずどおりにチケットをうけとることができた。大韓航空を使って安い航空券にしたので2日かけてクイーンズタウンに着いたころ。夷谷さん、いやエビちゃんが言うには、ガイドの人が空港まで迎えにきてくれるとのことだった。初めて海外に行く人のに大した情報ももらえず、目的地が羅列されたタイムスケジュールを元に、「乗り換えなんて簡単ですから。行って看板みたらどこ行くかすぐわかりますよ」と言われて人生初トランジットを2回も繰り返してクライストチャーチから国内線に乗り換えたころにはヘトヘトに。特に国内線なんて日本人を想定していないから機内放送は聞き取れないし小型のプロペラ機の揺れ具合に手に汗握ってようやく。でも大丈夫。ここまでくれば雑誌でみたあこがれのガイドにようやく会えると、ドキドキしながら空港に降り立った。夕日が山にあたってとても綺麗な場所だ。しかし、安心したのもつかの間、いくら探してもTonyは見当たらなかった。ほどなく自分の名前を書いた看板を持ったでかい白人にであう。誰だ?この人?もしかしてエビちゃんに騙された?
 なんだかよくわからないうちに見知らぬ外人の車にのせられて、ひたすら山の中をドライブする。空港に着いた時には夕暮れ時だったから、山中を進むにつれてどんどんさみしくなり、しまいには真っ暗な中進むことになった。自分ら二人、いったいどうなってしまうのか?頼みのエビちゃんの言ってたことと違うとドキドキする。実はエビちゃんに騙されてこのまま山中に投げだされるのだったらどうしようか。黙々と運転する外人さんにつたない英語で話してみると、どうやら忙しいTonyのかわりに迎えにきたとのこと。2・3時間かけてトワイゼルに着き、ここだと言われて玄関にでてきたのは紛れもなくTonyだった。あぁ、エビちゃん、疑ってごめん。
 それにしても英語なんて全然話せない人間がよくまあここまでたどり着いたものだ。この間一切日本語は無し。初めて会った外人にナイストゥミチューってなもので。自分の言いたいことがどうにか伝わったのが救いだった。
 寝付いたと思ったら、朝からTonyがドアを叩いていていた。いきなりたたき起こされたと思ったらグッドモーニング!自己紹介もそこそこに釣り場へと向かった。そこは牧場の中を流れる小川で、ガイドに魚を見つけてもらってはキャストする初めて体験する釣り方。フォルスキャストは少なくしなきゃいけないとか、1回目で決まらないと逃げられるとか、散々知識だけは仕入れていたけれど、10匹以上見つけていただいた魚を全部ミスキャストで逃した。さすがのTonyも不機嫌に。そんな中、反転流をこちらを向いてライズする大きな魚体がみえる。あそこに投げろと。もう腕なんか縮こまってしまっていたのだけれど、ちょうどミスキャストでそのまま手前にフライが落ちて、反転流にのって魚のいるところまで流れていった。そこからはスローモーションだった。「カプリ」と音が聞こえたかに思えた。大きな口をあけてフライを飲み込んだ魚はジャスト70cmの大きなブラウントラウトだった。 その後1匹を追加してなんとかその日を終えることができた。
 二日目は風が強く予定の場所を避け、河原が開けていてドライとニンフのトレーラーでブラインドフィッシングをした。ここでも2匹ぐらい釣ったかな。奥様にも釣らせてくれてとりあえず無事終わることができた。今思うと、多分二日目のこの川がAhuriri riverだったんじゃないだろうか。ちょうどシングルハンドでウェットフライをスイングするのにちょうどいいぐらいの流れだった。日本に帰ってきてから思いだしてはもっと上手く釣りをできただろうと後悔した流れ。
 たった二日しか釣りはできなかったけれど、3日目にはTonyがクイーンズタウンまで送ってくれて(エビちゃんの行程表には載っていなかった)、バンジージャンプをさせてもらって、レイクダンステンで釣りをする人を見て無事クイーンズタウンに着いた。その後疲労のピークにあった奥様とケンカをしながらロブスターを食べたり、ミルフォードサウンドに行ったりして日本へと戻った。
 最終日だったか初日だったか忘れたけれど、ちっとも読めない英語の本を買ってみた。Brown Trout Heavenという本。写真が多いという理由で買ったその本は、2・3匹ぐらいしか釣っていない、しかも1か所にガイド付きで二日間しか釣りをしていない自分を後悔させるかのように、南島の釣り全般を紹介するガイドブックだった。こんな綺麗な場所で爬虫類のように輝くブラウンが釣れるのか。NZは南島といえども広い。詳細に地図を載せたその本は、眺めるだけで二度とは行けないだろう場所だと憧れを封印するしかなかった。二度と行けないところのガイドブックほど心を痛めるものはない。いつか、引退をして、また行けたらねと自分に言い聞かせた。
 日本に帰ってきてから、NZのことを知る機会が増えた。というか自然と目についた。そしてここに行ったとかだけでなく、こんなにいいところがあったのに行っていないということを知った。地球の歩き方の巻末をみると、レンタカーを借りると自由に動けるらしい。行ってみて楽しかった分悔しさもあった。本当にいつの日かわからないけれど、また彼の地を踏みしめ、お世話になったエビちゃんに頼らずにこのBrown Trout Heavenを片手に自由な釣り旅行をするのだと心の底から誓った。
 
そして10年以上もたってから。あの時の竿を携えてあともう少しであの時の夢の続きが見れることになった。
 

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