二十年以上通っている山上湖がある。ダム湖なので水位の変動もあれば、土砂の堆積でポイントが潰れてしまうことも。特に最近は溜まった土砂を重機で掘り起こすだけでなく、周囲の林まで切り倒していたので、全く雰囲気が変わってしまったのが残念だった。今年の様子はどうだろうか。
過去ルアーを始めた頃。小さな魚のライズが湖面いっぱいに広がるなか、スプーンに食いついてくれる心優しいニジマス、は、いなかった。ただ巻くだけではダメ、アクションをつけてみてもカウントダウンを色々試してもダメ。なにより単にできることを一つずつ潰すだけでは面白くない。できることはルアーチェンジぐらいだろうか。ふと、気持ちを切り替えてみた。
この小さめのスプーンをヒラヒラ泳がすと、傷ついた小魚が湖面を彷徨うように見えないか。派手なリアクションよりも小魚をイメージするアクション。優しく、かつ表層を、岸に向かって逃げるように。こんなことを妄想しても、やってることにはには大差はない。それでもこのスプーンを見つけた大きなニジマスは後を追いかけて丸呑みする、といいなと妄想しながら釣りをする、いや、本当に丸呑みした!
妄想キャストをして、数投目にとつぜん竿が曲がって首を振り出した。相当でかい。初めての大物にパニックになる。いじったことがないドラグを緩める。ラインは小物を想定して4ポンドなのを思い出す。魚は悠々と潜水艦のように横へ動き出したと思ったら、急激に沖に走り出した。トルクにスピードが加わり細いラインは水圧で、ことも無く切れた。その場にへたり込む自分。切れたあとに大きくジャンプした魚が見えた。間違いなくレインボー。悔しさしかない記憶の中では60アップだった。
釣りをするときには、単純にできることを1から試すことが多い。もちろん、それで釣れるパターンやフライが見つかることもあるが、釣ろうとしている魚や捕食シーンを妄想すると途端にリアリティが増す。
真夏の暑い1日の中、なるべく冷たい水が集まるところ。わずかな流れに逆らうように、虫なのか、魚なのかよくわからないサイズのフライで誘いをかける。浅い湖底一面にびっしり濃い色の藻が生えているので、黒のフライが良いはず。川や底の色とのバランスが大事で、下手に目立つとスレた鱒は見向きもしない。その川に合った色というのはこういうところにあるのだろう。沈めるよりもストラクチャー周りをせめやすいインターティップで。この湖にいる小魚を想定して小刻みなリトリーブを心がける。すると程なく小振りなニジマスがかかった。
場所を変えてインレット側に向かう。すでに日は高く、周りも釣れている雰囲気がない。深く掘られたところに立ってライン合わせをやっていた。スカジット350grip、ティップはクリアインターで100grぐらいだろうか。スレたカラフトマスに嫌がられず、風にも負けないシステムを検討しながらロングキャストを試していた。追い風でも横風でもいける。かけらばかりの期待をもちつつ、黒のマラブーをループノットで結んだ。アクションが大きくなるので根掛かりが増える気がするけれど、この深さでインターティップなので大丈夫だろう。
キャスト練習しながら手前でアクションを見ると、オタマジャクシのようにヒラヒラ泳ぐ。ベイトというか、自分が魚だったら耐えられないマラブー特有の動きがいい。これを回遊している鱒が見つけたらつい咥えるかもね。なんて妄想する。
風に乗せながら遠目にキャスト。練習なので長めのファストリトリーブ、もうそろそろ帰ろうかと言うときに突然魚が掛かった。期待していなかったけれど、いい魚に出会いたかったのもあり、とても嬉しい一匹出会った。
釣れた要因はなんだろう。岸際でライズをする鱒には見切られる、しかしロングキャストで遠目を狙えば、回遊する魚には有効かも。ちょっと投げる角度を沖目にして、さらにラインをのばしてみたら、驚いたことにまた魚がかかった。今度のほうが首振り具合から魚体が大きい。手前に来たとき、練習だからとネットがないことに気づく。透明な水の中に頭の大きなオスのニジマスを確認できた。なんとか顔を上げさせたいが下に突っ込んで顔を上げない。つい雑に力をかけたせいか、足元でバラしてしまった。ただ、妄想しながら反復したように魚が掛かったことが嬉しかった。
350gr スカジットショートF
RIOtip INT10ft
帰りの車中でYouTubeをみてたら、キャプチュードの山口さんが同じようなことを語っていた。自分なんかよりもっと深く鋭い洞察で釣りをしている人の話は面白い。妄想している人は釣れる、と言っていたのが印象的だった。
残念でもニヤけながらまた釣りに行きたくなる帰り道。