2026年10月6日火曜日

忘れる

 釣りに行く。その後1週間かけて週末を想像しながら2、3本フライを巻き足す。釣れた後ならフライを巻くのも楽しめる。竿の仕上げも忙しいのでせいぜい3本ぐらいか。先週釣れたあの配色は再現できた。

 前の日はインスタグラムで知った釣り好きだろう店主の居酒屋へ家内と出かけた。これがまた若い店員さんもできているお店で、オジサンには心に刺さる名店。酒飲み2人が飲み放題もお願いしないで好き勝手食べてこのお値段?価格は平成かもしれません。すっかり上機嫌で次の日釣りに行くのを忘れてしまった。


 朝の目覚ましはいつも通り。気だるい朝も、何だか今日いかないと後悔するだろう天気だったので、イソイソと釣りへと出かける。秋の釣りは気温が下がっているので、のんびり出発しても大丈夫。ただ、やっぱり人気の川には車があって、ややテンションが落ちたスタートとなった。
 次のポイントに車が2台いたら止めよう、なんて、着いたら誰もいない。この時期この時間で人が入っていないならかなりのチャンスかも?と準備をはじめたら、巻きためたはずのフライを入れたフライボックスがない。ボックスを家に忘れたことに気づいた。何回探してもない。ただ、救いだったのは予備のボックスにそこそこフライが揃っていたこと。しょうがなくいつものパターン以外のフライで釣りを始めることとする。
 それでもあちこちで釣れた実績のフライは入っている。最初は黒の万能フライ。これが思いの外小さなニジマスに反応良かったのだけれど、少し大きなフライにサイズを大きくするためディースタイルに巻いた黒のマラブーへチェンジした。スペイフックで5番。もしこれに魚がかかったらバレやしないだろうか。いや、今日は黒があたりみたいだからまずはこのまま釣り下る。


 実績ポイントにフライを送り込む。やっぱりいつものフライじゃないと釣れないのだろうか。それともこれで釣れたらフライの選択以上に釣り方の問題かもと、もう一流しするときにはフライを替えようなんて逡巡していたとき。流し終わり前のスイング中にグン、と引かれながらラインがとまった。
 最初は小さいかも?と思いきや、竿を大きくバウンドさせる首振り、そして程なく分厚い激流の下にへばりついた。20m以上先で根掛かりのようにじっと動かない。あまりにも動かないので絡まったかそれとも本当に根掛かりだったのか?根掛かりがあらためて動いたとき、ヤバい、トロフィーだと確信した。そしてスペイフックだったことに気づく。長いシャンクがテコになって外れやしないだろうか。
 この手のサイズは主導権を握らせると好き勝手に走り出す。緩めず張りすぎず、プレッシャーを斜めにかけて、途中何度もジジジッ、ジジジッと糸を引き出していく。一度魚体を見せたものの、基本は大きく顔を振りながら底にへばりつく。それも30mぐらいの先でのファイトか?忍耐。と思う一方でフックが気になる。無理やり引っ張ることはできない。かといって好き勝手させられない。根元から曲がる竹竿、ロッドティップはまっすぐに伸びるぐらい傾けて。魚の向きと反対側に竿を寝かせつつ最大限のプレッシャーとショックの吸収を狙う。
 驚かせるように強く引くと暴れるだろうから、ゆっくり距離を詰めて何度か糸を出されつつ、ラインティップがガイドに入る頃にネットを準備したが、そこからがまた長い。2回目のランディングでようやくネットイン。今度はもっと大きなネットを用意しよう。


 ようやく今年のニジマスに出会えた。充実感と脱力。慌てて長さを測ったら、何度測っても59cm。感覚的には過去一のサイズなのに。それでもこの厚みと体高と重さは充分なメモリアルフイッシュと言える。


 フライを魚の口から外そうとしたら、ポロっと外れた。かかった場所こそ良かったけれど、長い時間のファイトで刺さり口が広がっていたようだ。あらためてヒヤッとしたけれど結果オーライだった。

 穏やかな秋空、この一匹で今日の釣りを終えることとした。…バンブーマジックはあるんです。





2026年9月27日日曜日

表現

 ワインの楽しみ方には色々あるが、その一つにはワインに対しての表現がある。「黒い果実味」とか、「スミレの花の香り」などの要素をどれだけワインから感じ取れるか、というものらしい。決して「草原の奥に見えた女性の顔」とか言うものではない。  
 先日見たワインについてのYouTubeで、これができたら楽しみ方が中級者、というのがあった。否定的なストレートな表現をポジティブに表現するというもの。
 例えば、 「酸っぱい」ではなく、「酸が豊か」 「渋い」ではなく「豊富なタンニン」など。 たしかにひどいワインの格が上がる気がする。 

 本流釣りだとどうだろう。 
「曇り空」→「1日中チャンスがある天気」 
「秘密のポイント」→「ミッフィの口を守りたくなる釣り場」 
「先行者がいてがっかり」→「人気がある実績ポイントなので人がいても釣れる」
「案の定釣れない」→「流れや地形が把握できたので次は釣れる」 

 つなげてみる。  

「寝坊して着いたら曇り空。先週見つけたはずの秘密のポイントには、先行者が2名もいてがっかり。あとから2度も流したが案の定釣れない。」  
「気温が下がってゆっくりと家をでた。日差しが秋にかわり、1日中チャンスがある天気だった。先週見つけたミッフィの口を守りたくなる釣り場には、先行者が2名もいた。人気がある実績ポイントということなのだろうから、先行者がいても釣れるはず。2度ほど流して流れや地形を把握できたので、次回は釣れる。」 

 このポジティブさが本流釣りには必要ではないか。
 そんなことをブツブツ言いながら昼ご飯を食べて次のポイントへ向かう。先行者が1人ならやってみようかと念じながら着くと、誰もいない。もうすでにやり終えたのだろうか。これはチャンスとばかりに仕度をする。  
 減水気味だが悪くない。インターのスカンジラインにファストシンクのポリリーダー、実績のあるドロッパーシステムで頭から流す。アンカーが切れ気味だが、うまく行くと平行なループができてとても気持ちよい。シングルスペイは何度やっても飽きない。厚い流れではほとんど根掛かりもないので、ポリリーダーサーモン8ft/spFastに変更する。何年かまえにこの時期何度も大きなのが釣れた配色のイントルーダーに結び変える。強い流れに立ち込んで奥にできた流れの筋にラインを投げ込み、何度もメンディングしながら手前の筋との間を丁寧にトレースする。  
 半ば諦めもありつつ、今の状況をポジティブな表現にしたらどういう状況かな、とぼんやりしていたら、ドスンと根掛かりのようなあたりがきた。強い流れのなかで留まって首を振り、大きく竿をバウンドさせる魚。やっぱりいた。この瞬間が強烈に嬉しい。下流に走り出したりはしないが、底について離れない。絶対に獲りたい。ゆっくりと距離を詰めつつ下のたるみに誘導して、ランディングできた。  
 サイズこそ50cmはなかったけれど、体高が高く綺麗なメスだった。
 これがあるから本流釣りはやめられない。経験者ほどポジティブになる理由が少し分かった気がする。