2023年4月18日火曜日

竿と風

 ベカン風。南南東でほぼ右手からの強い風。遮るものはなにもない。風と流れがぶつかりできる波、潮の満干で出現と消失を繰り返す湿地の島、ぬかるむ泥底、どれもこの地の釣りの過酷さを後押しする。フライフィッシングは空中に繰り出したラインの重みで距離を稼ぐ。言わずもがな風の影響が大きい。広い川幅の中、流れの部分で筋を成し、その対岸側のカケアガリにいい魚がついている。この地でフライフィッシングをするためには、風速4-5mの右斜め前からの風を切り裂き、魚がいるであろう20m以上先にフライ届ける力のある竿とラインが求められる。



偶然に朝方はほぼ無風だった。先週良かった場所、フライ、そしてバンブーロッドを使って釣りをする。満潮もあり、他には一人。せっかくなので贅沢に距離をとって釣りを始めたが、期待とは逆に釣れない時間が続く。一度休憩に上がる途中、声をかけたら、60アップ他4匹とのこと。どうやら釣る場所を間違ったようだ。

気持ちと場所を切り替えて12ft半のグラファイトに持ち替える。420grの前半がインターボディのスカジットライン。今日は風もなく、バンブースイッチロッドでも十分飛んでいると思っていたが、やはりグラファイトの性能には勝てない。明らかにバンブーより4-5m先までラインが塊になって飛んでいく。飛距離だけは快感である。塊というのがポイントで、自分で投げているというよりも放り投げている感触。華奢なバンブーとの明確な差に驚く。竿で稼いだ距離でアメマスたちに一歩近づいたのだろうか。ベイトを追いかけているだろう水鳥たちまでもう少しという位置にキャストすると、鈍重な当たり、あの竿の振幅がやってきた。

自分にとってのメモリアルとなるサイズ。やっぱり飛距離なのだろうか。ここでまたバンブーに持ちかえてみた。違和感しかなく、何て愚鈍なことか。タイミングと力の入れ加減を間違えないようにしなければ、ループをつくることすらおぼつかない。いや、これが楽しみなのだと自分にいいきかせる。自らの選択で、竿任せのキャストから一歩先に進んだのだ。飛距離よりも丁寧にターンオーバーすることを心がけていたら、川の中ほどで白いフライをひったくるようなあたりがあり、突然の疾走がはじまった。程なくそれは60アップのアメマスの尾ビレにかかったスレだということに気がついた。飛距離がそこそこでもかかったこと、そしてこのサイズのスレがかりを寄せられたことに驚く。白いフライにはどうもスレが多い気がする。白魚のベイトを追いかける大きなアメマスは、一度ヒレでベイトを叩いて失神させたあとに捕食するのではないか、と想像してみたりする。

その後アベレージサイズのアメメスを何度かキャッチできた。かけてからのやり取りに躍動感を感じられ、なんとも楽しい。グラファイトだと竿を曲げない回収作業となるサイズでも、しっかりと曲がる。グラファイトは対象魚に対してオーバーサイズなのだろうか。やっぱり竹竿だね、なんておもっていたら、突然ベカン風がふきはじめた。嗚呼。このあとの潮回りが絶妙なのに。これでバンブータイムは終了となる。

グラファイトに持ち替え、過酷なベカン風の中、風を切り裂きフライを届ける。これぐらいの風はオーバーヘッドでも厳しいところ、かねてより同行させていただいた友人の真似をして、普通に釣りをする。スカジットラインとグラファイトの性能がこれほど素晴らしいとは。程なく沖目のスイング中、リトリーブの合間にアメマス達が反応し始めた。そしてついにはデカいサイズの群れもやってきた。本日2匹目のメモリアルに加え、60アップ二匹、以下多数。ツーキャストワンフィッシュ。もしくはツーフィッシュ。ベカン風が気にならなくなるぐらい夢中になって釣りをする。いくら釣っても満足しない。もうこんなチャンスはないかもしれないから。これを味わいたくてここまで来たんだ。このパラダイスに。

長潮で10時すぎから夕方まで下がり続ける潮回り。まだまだ釣れると確信しつつも、次の日は悪天候だったので、3時前、ほどほどでやめることにした。

フィールドにおける竿の性能とは。答えが出ないまま、余韻に浸りながら帰路についた。








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