今年の北海道は暑い。日中の本流ではさすがに釣れる気がしない。そこでキャンプをかねて牧場脇のながれで久しぶりのドライフライフィッシングを楽しんだ。
これが思ったよりも楽しく、昔は苦手だったロングティペットリーダーも、15ftそこそこだとふつうにキャストできるようになって、ピンポイントにドラッグなしに落とせて、そこで魚がでてきたら。なかなかしびれるでしょ?以前よりもキャスティングの理屈を体が覚えている。ひざ下の割と開けた流れでは、深みのある特定のポイントに虹鱒がたまっていて、12番ぐらいのエルクヘアカディス一本でいける。
正直、過去ドライの釣りにはまっていた時、いろんなパターンを巻いては試した結果、エルクヘアカディスとアダムスパラシュートのサイズ違い各種があればよい、という結論に落ち着いた。まあ、それだけでは楽しくないけれど、カディスのウィングをエゾシカに変えたり、ハックルの色のバラエティや密度などをかえながら、でも基本?に忠実であることをルールとしていた。振り返ると、当時よりもパターンに縛られることなく自分の考えで楽しめるようになったかもしれない。本に出ているパターンじゃ無いと釣れないという思い込み。そこでのもうひと工夫がなかった。散々ストリーマーやウェットで試したあと、あらためてドライフライに向き合う。もうちょっと見やすく目立たせたいからインジケータ―をつけたり、密にハックルを巻いてハイフロートタイプにしたり、逆にウィングをスパースにしてみたりと、自分の釣りたい釣り方、流し方からタイイングを見直してみる。あの川のあそこに流したいから、というコンセプトは、本流のウェットやストリーマーパターンでよく考えるようになったのだろう。そう、フライパターンはもっと自由であっていいのだろう。ドライフライだって、もっとオリジナルな思考で試してもいいはずだ。
この週末も暑そうだ。いつもの本流を朝一流して、そのあと竿をもちかえて、支流を新規開拓してみる、という日帰りのプランを立ててみた。
1ヶ所目のところは先に車が止まっていたのでパス。二か所目で珍しく先行者なし。にやにやしながら準備していたら、あとからもう一台。そそくさと準備をすませて、足早にポイントへ。後ろからくる釣り人を気にしながら長いランをどんどん釣り下る。その途中、何度かライズがありながらも、あたりは来ない。突き当りのポイントは、この時期でも冷たい水がたまるようで、魚のはねも一番多かった。岸際にはカディスや蛾が飛んでおり、水面を賑わせている。ライズがあるあたりを流せているのだが、なかなかあたらない。フライを変えながら、ときにリトリーブしながら流すと、小さなアメマスや虹鱒がかかってくれる。竹竿の感度がいつも以上に楽しくやりとりさせてくれる。不意にグン、とあたる本流の釣りがやっぱりたのしい。やっぱり自分は本流が好きなんだと思いつつ、もう少し真ん中までラインが飛ばせるように、もうちょっと竿をまげてその反発力を利用して、と何度もキャストする。すると不意に竿が折れた。ポン、とあっけなくフェルールの付け根から折れた。今年使いまわしている絶好調の竿だったから、とても悲しくなった。なかなか顔をみせない魚を無理に寄せようとしたからだろうか。この残念な出来事で、何度も跳ねるこの時期には珍しい腹の白い魚を横目に、ここでのストップフィッシングとなった。
時間にして4時間ほどか。気温も上がってきているので、支流に入ろうか。いや、その前にもうワンチャン、その前に朝一入れなかったポイントに行ってみて、車がいないかどうか見てみよう。するとタイミングのよいことに、一台もいなかった。この気温を考えると、このあとも来ないのではないだろうか。のびのび竿が振れるチャンスだ。これだけでワクワクするなんて、やっぱり自分は本流が好きなんだと再認識する。だから支流探しはまたの機会にすることにする。
気温は高いが、日差しは和らいできただろうか。柔らかな風が川の上を走る。一瞬、天気雨のようにパラつくが、一層川の雰囲気を高める。気温30℃超でにやにやしながらキャストする。ここは過去に大きな魚が真夏に釣れていたし、自分も毎年秋にはいい思いをさせてもらっている。多少流れは変わっているが、大きな二つの筋の奥側の筋で少しでもステイするようにメンディングを繰り返しながら流す。この時期だと鮎やウグイの稚魚のような小魚を狙う大型魚がいるはずだ。過去一番実績があるフライで、過去に効果のあった流し方で挑む。こんなときに根がかるように当たる魚は、どれも大きなのが多い。そんな妄想で一人盛り上がっていたところ。本当にそのとおりにあたりがきた。
一つ目と二つ目の筋の間、ググン、と大きくあたったら、想像通りきつい流れの中で魚がとまった。ピクリともしない。根がかりのように感じるのだが、これはフェイクのはず。余計な体力を使わずに、でも隙を見て一気にもって行かれるパターンだ。じわーっと寄ってきて、手前の筋側にきたとおもったら、案の定一気に走り出した。慌てず緩めずジャンプされないように竿をねかせつつ。走りがとまったらジワジワとプレッシャーをかけつつ、ラインを巻き取る。アイランダーの甲高い逆転音がなんどか響き渡るが、1回目ほどの走りはない。たまらず水面に体を見せるもジャンプするほどの余力はない。慎重に反転流のなかを寄せつつ、顔をあげさせられた。もう少し。そう、この瞬間が一番緊張する。開いたネットに魚体が収まったとき、大きな声をあげてしまった。やった、トロフィーだ。
参考までにと過去の記録からタックルを比べてみたら、同じ竿で同じフライ、ほぼ同じラインシステムだった。まさか自分がこの川で、このサイズを釣ることができるなんて。
東京で単身赴任していたとき、真夏の満員電車で一時間かけて通勤していた。つく頃にはクタクタだ。月に一度北海道に帰ることを夢みて、流行り始めたスペイスタイルに思いを馳せながら、オリジナルパターンを巻いてはいるものの、臨場感の無いフライばかりが増えていく。妄想してもキャストは上手くならない。たまに釣り場に向かえてもコンディションが良いとはかぎらない。釣れるはずと思い込んでも釣れない。頑固に自分の力で釣りたいと決めたのだから、肩に力ばかりが入ってしまい、釣り自体が楽しくなくなる。
そんな数年を過ごしながら、良い竿、良いリール、良いラインに出会えて、少しだけ自分のスタイルがみえてきて、思い描いていた釣りに近づけられたとき、その想いは結実した。まさか自分にこんな魚がつれるとは。
ここであらためて一番恐れていたこと。もう、やめられない。
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